めがね舎ストライク

――誂えものの境地。ビスポークの魅力――

持ち主の嗜好や使いやすさ、サイズ感、使うシーンに相応しいかなど、さまざまな要素を店主と顧客が雑談を交えながら、互いに理想とするカタチをつくりあげていく。BESPOKE(ビスポーク)は特にスーツや革靴の世界で、過去から現在まで脈々と継承されている誂えの文化だ。 19世末頃までのアイウェアも上流階級のみが持てる、ビスポークアイテムだった。

バーカウンターで飲み物を飲みながら雑談交じりに、どんな眼鏡を求めているのかを探る。もちろん検眼も念入りに行う。

 

――ビスポークの世界観をアイウェアに――

そんな魅力的で特別感のあるビスポークの文化を現代のアイウェア界に根付かせようと奮闘するのが『めがね舎ストライク』だ。神戸・三宮に構えた店舗は既存の眼鏡店とは一線を画している。スライド式の扉を開けると面喰ってしまうのだが、目の前には本格的なバーカウンターが設えられ、実際にバーとしての顔ももっているのだ。琥珀色の照明に照らし出されたカウンターに佇むのは店主(マスターと呼ぶべきか?)の比嘉大輔氏。長年、大手眼鏡セレクトショップの店長・バイヤーを務め、認定眼鏡士SS級をもつ上に、フレンチヴィンテージフレームへの造詣も深い人物だ。

パキッと切り立ったエッジやキーホールブリッジと丸みのあるブローラインの組み合わせに、フレンチヴィンテージの匂い。

 

「どこへ行っても同じようなデザインが溢れる中で似合うか、似合わないかで選ぶのではなく、ビスポークでじっくりその人のための1本をつくりあげたい」と言い、豊富なサンプルからデザインを選べるのはもちろんのこと、完全オリジナルでオンリーワンのデザインもつくることができる。また「Tシャツですらサイズがあるのだから、アイウェアにもサイズはあってしかるべし」と3サイズを用意。さらに完璧なフィッティングを求めるなら、3Dスキャナによる細かな測定で完全なるフィット感を所望することも可能だ。

 

 

――目の前の工房で1本から。ビスポークの魅力を全国へ――

バーでくつろぎながら職人の手仕事を眺める。無味乾燥なネットショッピングでは味わえない贅沢だ。

 

バーカウンターに向かって左手、ガラスで仕切られた空間にストライクの心臓部――工房がある。彼らのアイウェアは分業が定石の業界にあって、1本のフレームを注文から生産までこの工房で完結させている。1/100mmの精度を誇る3D切削機器を始め、眼鏡づくりに欠かせない機器が並ぶこの工房で腕を振るうのは、若き眼鏡職人の川谷萌氏だ。機械のオペレーションはもちろんのこと、切り立ったエッジや急角度でドロップするTVカットなど、指先の記憶にいつまでも残る起伏に富んだカッティングは、氏の手作業によって生まれるのだ。

 

最新の機械を導入しても最後は人の手で削る。そうすることで独特なエッジやカーブが生まれる。

 

この少数精鋭部隊がきたる4月10、11日開催のVOSに初参加し、アイウェア界に一石を投じる。彼らが得意とするビスポークアイウェアを全国のショップとシェアし、各店の完全オリジナルデザインのアイウェアを提案しようというのである。もちろんビスポークゆえに、玉型からフレームカラー、表面のフィニッシュ、フレームサイズまで、すべてを個々のカスタマーに応じて選ぶことができる。また1本からつくることから流行り廃りに左右されることもなく、欠品や廃盤を気にせず永続的に注文できることも利点。そして最も重要なポイントは、既存のブランドやデザインに飽き足らない、あるいは好みのデザインもサイズが顔幅に合わずに諦めていたカスタマーへ、まっすぐにリーチできるということ。めがね舎ストライクのビスポークシステムが、ショップとカスタマーとのより深い関係を構築する重要なツールとなることは、間違いないだろう。

 


ビスポークのデモンストレーション用に誂えたディスプレイケース。VOSにもお目見えする。

 

 

――神戸・ジャズ・レコード。音楽を奏でるアイウェア――

もうひとつ、めがね舎ストライクの情報をドロップしよう。彼らの本拠地、神戸は開国以来、貿易の要となる港町として栄え、洋菓子や紅茶などを日本で初めて取り入れながら独自の発展を遂げてきた。同じくして日本のジャズ界も、神戸をその発祥地として全国へと広まっていった。異文化を受け入れて昇華する。そんな神戸の気質を継承するのが日本ジャズ発祥の地に因み、聴けなくなったレコードをリユースしたThe Record Glasses“Evans”だ。同モデルは世界に誇る日本の高級車「LEXUS」が展開する“LEXUS NEW TAKUMI PROJECT”の一環として発表。全国の若き職人たちの伝統的技法と新しいアイデアをカタチにする企画で、兵庫県代表として選ばれたのが前述の川谷氏である。

 

レコード盤特有のテクスチャを活かし、アセテートとラミネートした生地は一見黒く見えるが、光の加減で溝のパターンが浮かび上がり、フレームに仕立て上げるとシルバー925の飾り鋲と相まって顔の表情を刻一刻と変える、何とも味わい深い質感。神戸に所縁のあるジャズピアニスト、ビル・エヴァンスがかつて愛用した眼鏡をイメージし、その名を冠した同作は「斬新な素材とデザイン」という評価の枠を超え、神戸そのものを体現する存在と言える。

これまで一部のコアなエンドユーザーだけが知る存在だっためがね舎ストライク。それが初めて全国のショップに門戸を開くとなれば、VOSでの注目度は否応なく集まるだろう。

 

 

 

 

プロフィール
比嘉大輔(ひが だいすけ) アイウェアセレクトショップに長年勤務し、店長からバイヤーを務める。2010年に独立し、本格的にデザインや製造に着手するとともに、認定眼鏡士SS級を取得。書籍「FRAME FRANCE」の出版に携わり、2016年から「めがね舎ストライク」をスタートする。

HP:http://meganeya-strike.com/
Instagram @MEGANEYA_STRIKE
EMAIL:info@meganeya-strike.com

 

 

Writing:H.Jitsukawa

 

 

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