THE LOBBY TOKYO by YUICHI TOYAMA

――アイウェアの枠を超えた、エモーショナルな空間――
去る2月8日、アイウェアを表現するうえでこれまでにないスタイルのスポットが東京・代官山に生まれた。“THE LOBBY TOKYO”と名付けられたこの空間でホストを務めるのはアイウェアデザイナーとしてのキャリアを重ね、昨年25年目を迎えたことを機にブランド名をUSHから自身の名である「YUICHI TOYAMA.」に改め、新たなるスタートを切った外山雄一氏だ。

 


ここは一見すると氏のブランドの旗艦店のようだが、フレームを販売するのではなく、いわばショールームとしての機能を果たす場だ。しかしながらショールームと一口で語るには事足りないエモーションがここには託されていた。その想いとは……。

 

――長く安心して使えるアイウェアが消費文化の意識を変える――
ブランドが掲げるコンセプト「ニュートラル」を体現したような、白を基調とした空間。THE LOBBY TOKYOは先にも述べたとおり旗艦店ではなく、ショールームである。業界的にショールームといえばメディア関係への商品貸出しや、小売店が新作のバイイングに訪れるといった関係者向けのクローズドな場であることが定石。しかしここは一般に開放されており、エンドユーザーが直接ブランドの新作を目にすることができる。また異例中の異例ともいえるのが、ユーザーから直接アイウェアのメンテナンスを請け負う業務も行っている。これでは商売的に新しいフレームを買う人が減るのでは? と下世話な質問をしてみた。

 


「26年間眼鏡のデザインに携わり、日本製の眼鏡の品質や生産背景も含めた素晴らしさを人一倍感じてきました。そんな素晴らしいプロダクトがまだまだ使えるのにもかかわらず、壊れたからと買い替える人を目の当たりにする中で、メンテナンスや修理で長く使う意識を根付かせていきたいと思ってきたんです。そして金銭感覚は人それぞれですが、それなりの価格で買うわけですから壊れたから新調する、ではなく良い眼鏡を見つけたらアフターケアも含めて安心して買いたい、という意識の人を増やしたいですね。そうすれば結果的にもっとフレームが売れると信じてクリエーションしています」。

そんな志ゆえ、他ブランドのメンテナンスも可能な限り対応してくれるという。モノで溢れる日本の消費文化を根底から変えようという気概がそこには感じられた。

 

――人と人の距離を縮め、アイデアを導き出すための一杯を――
雑談交じりのインタビューが熱を帯びる。それに拍車をかけるのがコーヒーの存在だ。カウンターにはブランドとショールームのカラーに合わせて色別注された「La Marzocco」のコーヒーマシンが鎮座し、豆は外苑前の「HOTEL DRUGS」のブレンドを用意する。

V MAGAZINE JAPAN EDITION Vol.2でインタビューした折、親交の厚い池尻大橋の「Good People & Good Coffee」 で撮影したことからもコーヒーへのこだわりは感じていたが、バリスタを常駐させてまでコーヒーをサーブするには訳があった。

 


「鍋を囲んで大勢で食事すると話が弾むのと同じように、コーヒーを飲んで一息つく文化がとても好きなんです。コーヒーは人との距離を縮めてくれるし、新しいアイデアを導き出してくれる。だからこそ来てくれる人が飲むコーヒーにはこだわりたいと、強く思っているんです」。

コーヒーはさまざまな世界と外山氏をつなげる命の水、といっても過言ではないのだ。

 

――損得勘定ではないリアルな関係から始まるコラボレーション――
空間のクリーンさに一際、彩を放っているのが壁に展示された写真の数々だ。THE LOBBY TOKYOはアートを楽しむギャラリーとしての顔ももっている。アートディレクションを担当するのは、前述のGood People & Good Coffeeのブランディングや、FRUIT OF THE LOOM ART SHOW “Fruit Parlor”のオーガナイズなど、キュレーターやプランナーとして活躍する池田誠氏。その第一弾として選ばれたアーティストは香港を拠点とする写真家のLenny Kwong氏で、外山氏も池田氏も偶然ながらKwong氏の共通の友人でもある。

 


「LennyとはV MAGAZINEがキッカケで、香港で知り合ったんです。お互いに波長が合うこともあるんですが、何よりどこか懐かしくて、どこかシニカルな彼の視点を感じる作風に強く惹かれますね。また偶然にも池田君を始め、日本の知人とも仲が良かったりと縁があり、僕が香港に行ったり彼が日本に来たりすれば必ずご飯を食べに行く、という関係です。池田君とどんなアーティストを第一弾にしようか話し合い、お互いの仲間であるリアルな関係でスタートするのが良いよね、って話になったんです」。

これにKwong氏も快諾。メンテナンス、コーヒー、アート。アイウェアだけに留まらない世界がこうして出来上がった。

 

――つくり手とユーザーがニュートラルに交差する空間――
「僕はアイウェアに限らず、クリエーションは全般的に自分の経験してきたことがカタチになるべきだと考えています。つくり手とユーザーの共存する接点がデザインであれば、内面的な感覚でプロダクトをセレクトできた時にお互いにとってプラスの価値が生まれると信じています。そんな感覚を可能な限り、体感しやすい空間を創ることはごく自然なことだと思います。とにかくいろんな人に来てもらいたいですね! 何かをキッカケに足を踏み入れて損得勘定なしに会話が繰り広げられ、新しい発見があったり見聞が広がったり、自然と会話が生まれて人と人がつながる場所。ここに来れば何かおもしろいモノやヒトと出逢える。そんな空間を目指しています」。

さまざまな世界が交差し、共鳴するTHE LOBBY TOKYO。アイウェア界は次のステップに足を踏み込んだ、と言えるだろう。

 


THE LOBBY TOKYO
東京都渋谷区猿楽町5-8
03-6416-9034
11:30〜19:00(火曜〜土曜日)
11:30〜18:00(日曜日)
月曜定休

Instagram:@thelobbytokyo

HP : yuichitoyama.com

yuichitoyama

 

 

 

Writing:H.Jitsukawa
Photo:M.Nakajima

 

 

 

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